『もうひとりの太郎』

展示期間:2011年6月29日~10月23日

抽象度の高い造形と激しい原色の色使い。裸婦もなければ静物もない。岡本太郎は写実的な絵は描かなかった。それが岡本絵画に対する一般的なイメージだろう。

もちろんぼくもそうだった。戦時中や親族知人のデスマスクなど、特殊なケースを除いて太郎に写実画は存在しない。そう考えていた。実際、敏子も「岡本太郎に自画像はない」と言っていたのだ。

だが昨年、目を見張るデッサンがひょっこり出てきた。明らかに上野毛時代の太郎と敏子だ。敏子さえ忘れていた60年前の、そしておそらく唯ひとつの自画像。そして彼女を知る者ほどその描写力に驚く若き日の敏子。いずれも岡本絵画のイメージとは真逆の、静かでやさしい表情をたたえている。

本展はそうした身近な人の表情を書き留めた写実的な絵を一堂に会したものだ。人に見せるために描いたものはない。

ここにはぼくたちの知らなかったもうひとりの太郎がいる。まぎれもなくそれも太郎なのだ。

■会期中に第14回岡本太郎現代芸術賞の「岡本太郎賞」を受賞したオル太 と「岡本敏子賞」の望月俊孝氏の新作特別展示も行ないました。