『TAROのピエタ』

1999年10月6日~12月27日

岡本太郎のピエタ───意外に思われるかもしれない。十字架からおろされ、息絶えたキリストを抱く嘆きの聖母。ヨーロッパでは描き尽くされた画題だ。日本人の絵はあまり見たことがないような気がする。岡本太郎は、一生、挑戦しつづけた。いつか力尽きて、運命に殉じる日がある、その姿を予感していたのだろうか。描きかけだが「ピエタ」の絵が何枚もある。ぐったりと、闘い終えて、傷だらけで、抱えおろされ女の膝の上に横たわっている裸体、それはまさに岡本太郎その人なのだ。息絶えている。だがその存在の訴えはまだ終わっていない。人生を賭けた悲痛な叫びは、心を許した女の胸の底に、低く響き、世界に宇宙にむけて発振していく。いったい、この人は、この運命は何なのか。この人を見よ!と。太郎はなぜこんなにいくつものピエタを描いたのだろう。描きながら、ついに完成していない。いつか、まだ先のことだと思っていたのかもしれない。